大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和54年(行ツ)88号 判決 1979年12月13日

上告人

後藤彌之助

右訴訟代理人

中島繁樹

被上告人

福岡県選挙管理委員会

右代表者委員長

宮崎時春

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中島繁樹の上告理由及び上告人の上告理由について

刑法上の贈賄罪は、それが町議会の議長選挙に関して犯された場合であつても、公職選挙法一一条一項四号にいう「法律で定めるところにより行なわれる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪」にあたらないと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(戸田弘 団藤重光 藤崎萬里 本山亨 中村治朗)

上告代理人中島繁樹の上告理由

一、原判決には公職選挙法一一条一項四号の解釈を誤つた違法がある。理由は以下のとおりである。

二、大久保福義は、那珂川町議会議長選挙に際して、議長候補者として当選を得ようと決意していたものであるところ、右選挙に際してその選挙権を行使する職務を担当していた同町議会議員に対し、右選挙では大久保福義に投票されたい旨の請託をなして、その投票の報酬として金員の供与又は供与の申込みをしたものであり、これが刑法一九八条一項に該当するとされたのである。右那珂川町議会議長選挙は、地方自治法九七条、一〇三条一項、一一八条により行なわれる選挙であるから、公職選挙法一一条一項四号にいう「法律で定めるところにより行なわれる選挙」であり、また大久保福義の右犯罪は那珂川町議会議長選挙に関する犯罪であるから、公職選挙法一一条一項四号にいう「選挙に関する犯罪」である。したがつて、前記の事実は、公職選挙法一一条一項四号に該当するといわなければならない。

三、大久保福義の右犯罪は刑法所定の贈賄として擬律されているが、その実質は明白に選挙に関する犯罪である。原判決の説示によれば刑法上の贈賄罪は一般犯罪であるから「選挙に関する犯罪」ではないとする。しかし、選挙に関する犯罪という実質に対する形式上の擬律が刑法所定の贈賄であるにすぎない。公職選挙法一一条一項の目的が選挙の公正の確保であることを考えれば、実質こそ、同条一項四号を適用するにあたつての基準たるべきである。形式上の擬律に拘泥する原判決の論理は、同条一項四号の立法趣旨を誤解するものである。

四、原判決の説示によれば、町議会の議長選挙は間接選挙であるから直接選挙につき適用されるべき同条一項四号の適用はないとする。

しかし、同条一項四号の適用が原判決のいう直接選挙にのみ限局されるべき理由はない。公職選挙法が直接選挙に関するものであることはいうまでもないが、同法一一条一項四号にいう「選挙」は「法律で定めるところにより行なわれる」選挙であれば足りるのである。地方公共団体の議会内で行なわれる議長選挙も、議会の議員の選挙と同じく、地方公共団体の立法機関の選出手続であり、選挙の公正が確保されるべき事情に違いはないのである。

五、以上により原判決は破棄されるべきものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例